1. はじめに:AIは「生徒」から「熟練のパートナー」へ
「個人でカードゲームのシミュレータを作るなんて、以前なら気が遠くなるような作業でした。」
特にヴァイスシュヴァルツ(WS)のような、複雑なルールが絡み合うゲームならなおさらです。膨大なカード効果をすべて実装しようものなら、個人開発の範疇を優に超えてしまいます。
実は前々から、AIを使って何か作れないかとヴァイスのルールについて問いを投げてはいました。しかし、これまでの回答といえば、別のTCGの知識が混ざっていたりと使い物にならないものばかり。正直、「AIにはまだTCGは早いか……」と諦めていたんです。
そんな中、登場したChatGPT-5やGemini 3。 事前の検証動画でその進化を目にし、「今度のAIなら、もしかして……」と期待を込めて触ってみた結果、その実力は想像を遥かに超えていました。何より驚いたのは、AIがしっかりと「ヴァイスシュヴァルツのプレイヤー目線」で回答を返してきたことです。
「全部を作るのは無理でも、主要な動作を半自動化した『一人回し専用シミュレータ』なら、これなら本当に形にできる。」
そう確信したところから、このプロジェクトは始まりました。一昔前なら、AIにルールを「1から10まで」説明し、それでも指示通りに動かないコードと格闘する日々でした。しかし今、私の目の前にいるAIは、すでに「10」のうちの多くを理解している熟練のパートナーです。
かいつまんで「1」や「2」を指示するだけで、理想の形が組み上がっていく――。本記事では、この圧倒的な開発スピードの裏側と、それでも残った「最後の1割」の壁について、実際の動作画面を交えて共有します。
2. AIがルールを知っているメリット 〜「10」の指示が「1」で済む世界〜
以前のAIとの開発は、いわば「ルールを知らない新人に、ルールブックを読み上げながら作業を頼む」ようなものでした。「まず山札の上からカードを1枚移動させて……あ、そこはクロック置場っていうんだけど」といった具合に、ロジックを組む以前に「仕様の説明」に全エネルギーを使い果たしていたのです。
「1」を言えば「10」が返ってくる快感
しかし、最新のAIとのやり取りで、私は衝撃を受けました。私が出した指示は、たったこれだけです。
「ゲームの『始めから終わりまで』の流れ(フェーズ進行)を作りたい」
これだけの指示で、AIは「スタンド、ドロー、クロック、メイン、アタック、エンド」という、ヴァイス特有の全フェーズを即座に定義し、それぞれの処理のベースとなるコードを書き上げたのです。
「ドローの後にクロックフェイズがある」「アタックの後にはエンドフェイズが必要」といった、プレイヤーなら当たり前のルールを一から教える必要がない。まさに、「10あるルールのうち、1か2の要点(かいつまんだ指示)を伝えるだけで、残りの8や9はAIが阿吽の呼吸で埋めてくれる」状態です。



プレイヤー目線の「共通言語」
さらに驚いたのは、AIが「扉(門)」「風」「袋(スタンバイ)」といった、ヴァイスプレイヤーにしか通じないようなアイコンやトリガーの概念を、最初からデータ定義に組み込んでくれたことです。専門用語をそのまま使って会話できるため、プログラミングの相談というよりは、「熟練のプレイヤーと一緒に、理想のプレイ環境を構築している」という感覚に近くなりました。
3. AIの「迷い」と人間の「審判」 〜最後に信じるのは自分の基礎知識〜
AIが「1」で「9」を返してくれるようになったのは事実です。しかし、開発を進める中で、どうしてもAIだけでは突破できない「最後の1割」の壁にぶつかる瞬間がありました。
1. AIには見えない「ルールの隙間」
例えば、ヴァイスシュヴァルツの根幹である「レベルアップ処理」を実装した時のことです。AIは「クロックが7枚以上になったら判定する」というロジックを提案してきました。一見正解ですが、ここには落とし穴がありました。「クロックが6枚の時に、2ダメージを受けた場合」です。
AIのロジックでは、一時的にクロックが8枚になり、「8枚の中からレベルに置く1枚を選ぶ」という、実際のルールではありえない挙動をしてしまいました。AIは「コード」は書けますが、ゲームの「厳密な作法」までは、現時点では守り切れていないのです。これを「本来のルールは、7枚目が置かれた瞬間に割り込みで判定が入るんだよ」と軌道修正し、正しい処理へと導くのは人間の役割でした。

(ここの処理をAI側は間違って実装していた)
2. AIの「正論」と、私の「正解」のズレ
もう一つの壁は、原因不明のフリーズでした。デッキサーチなどで共通のUIパネルを使い回していた際、処理が重なって進行不能になるバグが発生しました。
AIに解析を依頼したところ、すぐに原因と修正案を返してくれました。確かにその解析結果は、「潜在的に起きうる別の不具合」を正しく指摘したもので、決して的外れな回答ではありません。 しかし、今まさに目の前で起きている「パネルの競合」を解決したい私にとっては、今求めている正解とは別のものでした。
最後は自分の目でログを追い、UIの排他制御の問題だと突き止め、自ら修正方針を提示しました。AIという「最高の助手」が迷った時、正しい道を示せるのは、基礎知識という地図を持った自分だけなのだと痛感しました。
4. おわりに:AIは「魔法の杖」ではない。だが、最高に頼れる「相棒」だ
今回のシミュレータ開発を通じて痛感したのは、「モノづくりのハードルが劇的に下がった」という事実です。今のAIは、私たちが1を語れば、残りの9を形にしてくれるだけのポテンシャルを持っています。
とはいえ、AIは決して「魔法の杖」ではありません。そこには必ず、開発者である「あなた」の視点が必要になります。
- 10ある選択肢から、最適な「1」をかいつまんで指示する力
- AIが描いた「10」の中に潜む、わずかな「ズレ」を修正する力
- 「どう動くか」ではなく「どう遊びたいか」を設計する力
この「最後の1割」を埋める力さえあれば、個人開発の限界を超えて、自分だけの理想の研究室(ラボ)を作り上げることができます。
完璧を目指さず、まずは「1」を投げてみる
「プログラミングは難しそう」と諦めていた方にこそ、今のAIに触れてみてほしいと思います。完璧なものは大変ですが、まずは自分を助けてくれる小さなツールから。AIという最強の加速装置を使いこなし、自分のアイデアが形になっていくワクワク感は、これからの時代の新しい「遊び」の形なのかもしれません。
AIはすでに、あなたの「1」の指示を待っています。まずは一歩、新しいモノづくりの世界へ踏み出してみませんか?